国土緑化推進機構の季刊誌である「ぐりーんもあ」2009年44号に
緑のダム北相模が紹介されています。
特集/森林から見る生物多様性、生物多様性を意識した森林づくりの視点
市民団体としてFSCTM認証を取得
自然を保護していくことは、生物多様性にとって大きな意義がある。しかし、そのために生産活動が損なわれていくのであれば、それは片手落ちである。特集1で紹介したように、生物多様性の機能のひとつには、人間の暮らしの上で必要な資源を供給する作用があげられている。様々な生き物の暮らしを守り、さらには人間の生産活動も損なわないという両方を達成することが重要であり、そのためのキーワードが、持続可能な社会づくりということになる。
FSC
TM(Forest Stewardship Council、森林管理協議会)は、適切な環境保全、かつ経済的にも継続可能な森林管理を推進することを目的に、国際的な森林認証制度を行う第三者機関である。FSC
TM認証を市民団体として日本で始めて受けたのが、NPO法人緑のダム北相模である。
「私はもともと山歩きが大好きで、首都圏近郊の山をあちこち歩いていたのですが、ある日、相模湖周辺の山を歩いているときに、妙に静かなことに気がついたんです。まったく生き物の気配が感じられないんですね。その後、新聞で放置林化が進む日本の森林の現状を知り、いろいろと調べていった中で、解決策としてはとにかく人が森林づくりに参加しなければならないと聞きました。じゃあやってみようか、と仲間を集めて森林づくりを始めたのが1998年のことです」というのは、緑のダム北相模事務局長の石村黄仁さん。
活動開始当初は、地元住民からの誹謗中傷などもあり活動フィールドを何度も替えなければならないような状態が続いたが、その熱意と真摯な態度によって地元住民にも徐々に認められるようになり、2000年には若柳・嵐山にある60haのフィールドに定着しての活動が行えるようになった。その頃に、FSC
TM認証の取得にチャレンジすることを決意したそうだ。2002年にはNPO法人となり、FSC
TM認証取得チームを編成して取得計画を遂行し、2005年に市民団体としては日本で始めてFSC
TMを取得することとなった。
「FSC
TMの審査は、10の原則と56の基準に基づいて行われるのですが、そのことを知って気がついたのは、必要なのは環境と経済が矛盾しない持続的な社会づくりをしようという精神だということでした。そうしないと人類は、地球上に生きていくことはできないということなんです。そして2000年にFSC
TM認証を取得した三重県の速水林業と高知県の檮原町森林組合に見学に行き、皆さんの熱意に触れたことで、私たちも熱意さえあればFSC
TMは取れると思ってしまったわけです(笑)。当時はずいぶんバカにされたものですが、やる気さえあれば、できてしまうものなんですよ」
エコ(ロジー)とエコ(ノミー)は矛盾しない
緑のダム北相模の活動は、「森林破壊という負の遺産を子孫に残してはならない」という理念とともに、「森をつくる」「森を活かす」「森と都市をつなぐ」を3つの原則に基づいて行われている。フィールドが増え、活動内容が多彩になっている現在でも、全ての活動はこの理念と原則に基づいて行われている。
「森をつくる」活動では、FSC
TMの原則に従った森林整備と生態系調査が行われている。生態系調査は、まずはFSC
TM取得に向けて、2002年から3年計画で実施されており、1年目は主要な生物種の把握と指標種の抽出等、2年目は貴重種の生息状況の把握と保全対策の検討等、3年目には生業による生態系への影響評価と保全ガイドラインの検定が行われた。FSC
TM取得後もスギ林、ヒノキ林、アラカシ林(照葉樹林)、コナラ林(落葉広葉樹林)に調査定点を設定し、植生調査、毎木調査、動物相調査等によって継続的にモニタリングが行われている。これらの調査は専門家をリーダーとして、ボランティアの手で行われているが、一方では生態系調査に関心のある人が広く参加できるように簡易な調査法も開発しており、環境教育と調査の両立も図っている。
「森を活かす」活動では、間伐材等の木材だけではなく、養蜂や炭づくり等、様々な形での新しい森林資源の活用に取り組み、結果として森林づくりに還元される仕組みづくりを進めている。
「森と都市をつなぐ」活動では、行政や企業等、また上下流をつないだ協働団体との連携によって各種のイベントを開催し、多くの市民に森林づくりの大切さをPRし、さらなる参加を呼びかけている。
「環境と経済、つまりエコ(ロジー)とエコ(ノミー)は矛盾することはありません。それどころか、これからは環境こそが、経済の中心になっていくでしょう。木が売れないことが問題になっていますが、森林は公益性と多様性を備えているのですから、生物多様性に配慮しながら収益を上げていく方法は、本気で考えればいくらでも見つかるはずです。例えば私たちはFSC
TM材で積み木をつくっているのですが、これが結構売れています。FSC
TMという付加価値、NPOがつくっているという付加価値、そして箱根細工の職人さんの手によって加工された確かな品質によって、1㎥当たり1万円ちょっとのスギやヒノキが、80万円にまでなるのです。そしてその利益は、再び森林の整備に活用されていくわけです」
様々な人が森林づくりに参加してこその生物多様性
「私は学者ではありませんから、生態学的に生物多様性を語ることはできませんが、きっとそこには哲学が含まれているのだと思います。全ての生物は、関わり合い、調和しながら暮らしていて、必要のないものなどひとつもないわけですが、それは生きていくことの本質なのかもしれません。私たちはそういう森林づくりを理想としていますし、哲学さえ共有していれば、人と人とのつながり、森林と都市とのつながりなど、全てのものを結びつけていくことができるのではないでしょうか」と石村さんは言う。
緑のダム北相模は、市民(地域住民や都市住民等)、学際(大学等)、企業、行政など、すべての人々と協働していくことも理想のひとつとして掲げている。そして、それらの人々の多様な価値観を活かしながらも、一体感をもって活動していくためには、やはり哲学がぶれないことが大切だという。
里地ネットワークの活動もそうだが、より多様な人たちがそれぞれの価値観を持って森林づくりに参加してこそ、生物多様性も含めた多面的機能を発揮できる森林の姿に近づいていく。逆に言えば、森林の持つ生物多様性には、森林づくりに参加する様々な立場の人たちも含まれているのである。
以上、「ぐりーんもあ」2009年44号より引用